普段と変わらないハノイ市内・ホーチミン市内

中国による南シナ海での石油掘削作業に対する反対デモが突如暴徒化したのは、5月13日。

私はその時、日本にいたのだが、デモが暴徒化したと聞き、実は大したものではないと勘ぐっていた。しかし実際は死者が出るほどの大きな事件と日本では報道され、直後からメールや電話で「ベトナムは大丈夫か?」「渡航は延期した方がいいか?」等の問合せが相次いだ。

事実関係を探るべく、弊社関連会社のハノイとホーチミンの代表に確認したが、両者とも「市内は普段と対して変わっていない」という。彼らが言うには「暴動は田舎の工業団地の一部だけ。南部のビンズオン省もホーチミン市内から1時間30分はかかるし、ハティン省に至ってはハノイから車で5時間以上かかる。全く影響はない」ということだった。

デモ予告当日も沈着冷静

その週末の5月18日(日)には、大々的なデモが予定されており、緊張状態になるという状況で、私はハノイに入った。ノイバイ空港に到着して、いつもの通りタクシーで市内に入ったが、市内に入る途中にあるクアンミン工業団地、タンロン工業団地は、デモらしき輩の姿は見えなかった。

市内に入り、いつもは通らないが、中国大使館があるHoang Dieu通りに向かってみたが、通りは閉鎖されていたものの、デモ隊らしき人々はいなかった。

「何か事件はおきていないか」という危険な期待は裏切られ、本当に普段通りのハノイの休日であった。

ベトナム政府は国民のコントロールがうまい

翌日から、ベトナム人経営者やベトナム商工会議所の職員等と顔を合わせ、デモの影響について話を聞いた訳だが、一応に言う事は「ベトナム政府は、国民のコントロールがうまいので、すぐ沈静化する」「経済的な合理性から考えてもデモを行うメリットがない」といった非常に冷静なコメントだった。

事実、デモ予告日直前の5月16日と当日の5月18日には、携帯電話のショートメッセージで、グエン・タン・ズン首相から、携帯電話キャリアを通じ、国民に一斉にメッセージを配信していた。

5月16日のメッセージは

「グエン·タン·ズン首相は、国民が国内及び国際法に基づき、悪者に耳を傾けず、神聖な祖国を守るため、国民全体がお互いに協力しあい、事業を発達させ、生活の改善に貢献するために団結し、安全と秩序を維持する、法律違反がないベトナムである事を望む」という、愛国心と団結心を煽りつつ、デモは犯罪であるという事を伝えていた。

5/16のグエン・タン・ズン首相のメッセージ
5/16のグエン・タン・ズン首相のメッセージ

また、デモ予定当日である5月18日の夕方のメッセージでは、

「グエン·タン·ズン首相は、法に従う愛国心の持ち主である国民が、社会保障の元、法律違反につながるデモ隊を煽動せず、安全と秩序の維持に貢献することを期待している」と、今後のデモの発生を抑止するコメントを送信していた。
これらのコメントをベトナム国民がどう受け止めたかは、その後の報道でデモが再発していないということからも、絶大な効果があったと言う事だ思われる。確かに政府は国民のコントロールがうまいかもしれない。

デモ扇動者は中国人?

時間の経過とともに、国民全員がこのデモの真相らしき情報を得ていた。それは扇動者が中国人だという事。

「中国人が煽動して、100,000ドン(約500円)をデモ参加費として受け取った労働者がやっただけ」とか、「100,000ドンで逮捕されたら割が合わないから次はやらないだろう」というコメントが、FacebookやTwitterでもにぎわした。経済合理性を重視するベトナム人らしいコメントである。

今後の中越関係で日本企業の投資環境が改善されるかも?

ベトナム国内でのデモは終息したものの、依然、南シナ海での石油掘削に関する中国、ベトナムの睨み合いが続いている。そのため経済面においては、今後注意が必要だと思う。ベトナム自体、最大の輸入相手国であり、輸出相手国でもある中国と、たもとを分かつようなことはしないと思うが、一番恐れているのは、中国側が一方的に貿易に制限をかけることだ。日本でも以前、レアアースの輸入制限により、主要産業である自動車産業や電機産業等にコストアップや供給不足等の影響が出た事は記憶に新しい。

またベトナムは裾野産業がまだ未発達であるため、アセンブリ(組立)はベトナムだが、部品の調達を中国から輸入しているケースも少なくない。中国に隣接している北部の工業団地は、日本の大手企業もおおく、今後経済面で影響を及ぼしかねない事態も予測される。

ベトナム経済も不動産バブルの崩壊、不良債権問題等で深刻な経済問題を抱えていたが、ここに来て多少景況が上向いてきた感があった。また25%から22%への法人税の減税、外資系企業の出資比率を最大60%に上限を上げる、また外国人個人投資家による不動産所有の認可等、海外からの投資を活発化させるよう規制を緩和させる方向にあるが、今後の中越関係のあり方次第では、これらの効果が期待できないかもしれない。

ただ、ベトナムはやはり投資実行率が最も高く、約束はきちんと守る、最も頼れる国として、日本との関係強化をより一層図って来ると思われる。

更に経済連携を強化すべく、投資奨励政策の実行と、事業規制緩和が約束通り実現すれば、更に日本企業のASEAN進出への足がかりとなる魅力的な国になることを望むばかりである。